月島慕情

実は浅田次郎を読むのは初めてなのだが、その巧さに舌を巻いた。７編全てがよい出来だが、人によって好みは分かれるところかも。私はやっぱり大正時代の吉原を舞台に遊女の身請け話を扱った表題作が一番のお気に入りだ。成熟した作家の自家薬籠中のテクニックと語り口に翻弄されるのって幸せだねえ。五十路を迎えてから涙腺が緩み、我ながらだらしがないと思っているのだが、皆が言うほどにはこの作品は泣けなかった。しかし、そのことがむしろ作品の価値を高めているようにも思っている。薄っぺらな感傷に終わっていないからだ。次は長編を読んでみたい。