新装版三四郎はそれから門を出た (ポプラ文庫)

著者によれば、「書評とは愛の表明」であり、「愛がないなら、黙して語らずにおけ」が信条であるという。「それが、読書という個人的な行為をする、すべてのひとに対する礼儀だと思う」とまで言われてしまうと、わがレビュー履歴を顧みてズキリと心が痛むところだが、Amazonレビューの場合は良し悪しとも書かないとお買い物の参考にならないので、努めて気にしないことにする。さて、本書はそんな信条にのっとり、著者が好きな本の書評を軸に、好きなもの・ことに関するエッセー・コラムをまとめている。直木賞や本屋大賞を取る前の２００３～０６年に連載されていたものだが、その感性や語り口は今と同じ紛れもない三浦しをん。家族観だとか植物愛、文楽にはまっていることなど、後の作品で描かれる要素が断片的に登場するので、１５年経った今読むのがまた味わい深い。複数の媒体での連載をまとめているので、似たようなネタが登場するあたり、ネタは無限ではないのだなと変に親近感を覚えたりもする。著者の書評集『本屋さんで待ちあわせ』で学習したのは、著者は全力かつ軽妙に「愛の表明」に徹するものだから、書評自体が魅惑的に過ぎて、しばしば、実物を読んで「想像したほどじゃなかった」感に襲われてしまうこと。本書も同じ罠のにおいが発散しているので、疑り深く読み進めた。それでもやっぱり、気づけば読みたい本リストが激増させられていた。